こどもの重症筋無力症

こどもの重症筋無力症

重症筋無力症と闘病しておられる小児患者さんにとって、手術はどういうものでしょうか。
まず「こわい」というイメージがあると思います。
次に「キズが残りそう」というイメージが来るかもしれません。
一方、「手術すれば薬を飲まなくても良くなるの?」という希望もありそうです。
わたしたちは、こども専門病院の外科医として、重症筋無力症の患者さんの胸腺を取る手術を行っています。
全員が手術の対象になるわけではありません。
しかし手術の対象になると判断され、手術を受けた場合、大人よりも「薬をやめられる・減量できる」確率が高いことがわかってきました。
今までの手術の大きな問題は、胸に大きな傷痕ができることでした。
我々の行っている手術は、みぞおちに約2cmと約0.5cmの傷を2か所つけるだけです(場合によっては胸を開けることもあります)。

小児重症筋無力症の手術について

どんな時に手術をするか

重症筋無力症の治療ガイドライン(日本神経治療学会・神経免疫学会合同編)によりますと、
11歳以下の発症:抗コリンエステラーゼ薬、ステロイドを使う
12歳以降発症:ステロイド抵抗例、全身型および球症状を伴う症例では胸腺摘除を勧める
とあります。

我々は厳格な基準は設けていませんが、ステロイドが効かない症例など、内科的に治療が難しくなった患者さんについて手術を検討します。
年齢については、低年齢の方(幼児)でもステロイドが効きにくい場合などは積極的に手術をしています。今までに5名の幼児(3-5歳)の患者さんにこの手術を行い、全員効果がありました。

手術の効果があるかどうかは、抗アセチルコリンレセプター抗体の値も参考になりますが、低値の方にも手術をして効果を認めています。
発症してから手術までの期間が短い方が手術の効果が高いことが、成人では言われています。小児ではどうでしょうか。我々の経験では、発症から10年以上経過した方でも手術によりステロイドが不要になった方がいます。一方、13年経過した方では手術は無効でした。この違いが何なのかは今のところ分かりません。ただ発症からの期間が長いと手術できないということはなさそうです。

手術法

従来法(胸骨正中切開法)

胸の中央にある、胸骨を上から下までまっすぐに切って胸(縦隔)の中に入り、胸腺を取ってくる方法です。
ただ胸腺を取るだけでは、胸腺の周囲にある脂肪の中の小さな胸腺組織を残すことになり、全部とったとは言えず、効果が出ないことがあるため、その周囲の脂肪も全部取ってくる方法が主流です。
これを拡大胸腺摘出術と言い、日本の正岡先生が考案された方法です。内視鏡を使った手術でも考え方は同じで、この周囲の脂肪をちゃんと取れるかどうかがポイントになります。

内視鏡下手術

小さな傷から内視鏡を挿入し、それをテレビモニターにつなぎ、胸腺などの様子をテレビモニターで見ます。同じく小さな傷から細くて長いメスやハサミを入れて胸腺等を摘出してくる方法です。傷が小さいのが最大のメリットですが、手術の難易度は高くなります。
大人では胆石の患者さんの胆嚢を取る手術が有名ですが、今や胃がんや大腸がん、また胸部では肺を取ったりする手術も盛んに行われています。
小児では胆石や癌はほとんどありませんが、重症心身障害児に多い胃食道逆流症を治療するための、噴門形成術がこの方法で行われており、我々も多数の手術を手がけています。重症筋無力症に対する内視鏡下胸腺摘除術は、どこから胸腺にたどりつくかで、いくつかの方法があります

縦隔と胸腔の違いについて

胸とお腹は「横隔膜」で分けられています。
胸は前から見て3つの部屋に分かれているとお考えください。各々の部屋は「胸膜」という壁で分けられています。左右にある部屋が「左胸腔」と「右胸腔」で、それぞれ左の肺と右の肺が入っています。
中央にあるのが「縦隔」と呼ばれる部屋で、ここには胸腺、心臓、食道、気管などが入っています。

縦隔鏡手術

我々の方法です。城戸先生が1998年に開発されました。
みぞおちの所を約2cm切り、ここから手術します。メリットは、直接縦隔をのぞくため、胸骨正中切開と同じような光景をテレビモニターで見ながら手術ができること、また分離肺換気と言って、麻酔の時に左右の肺を別々に呼吸させる必要が無いため、体格が小さくても大丈夫なことが挙げられます。デメリットとしては、通常縦隔鏡を使う手術はないため、慣れないと難しいということです。
城戸先生のホームページも是非ご覧ください。

胸腔鏡手術

 左右のろっ骨の間からいったん胸腔に入り、それから縦隔に進んでいきます。
メリットは、肺の手術で慣れた方法であることが挙げられます。
デメリットは、左右どちらかからしかやらない場合、片方の脂肪の摘出が不十分な可能性があること、かといって両側から手術すると、両方の胸を開けることになり、両方の肺が癒着したりすること、また上記の分離肺換気が必要なことが挙げられます。

手術のリスク・合併症

どんな手術でも必ずリスクがあります。この手術も例外ではありません。
最大のリスクは出血です。もちろん出血多量で手術中に危険な状態に・・・なんてことはありませんが、一番問題なのは、手術中に大きな血管から出血し、それを止めるために従来の方法(胸骨正中切開)で胸を開けざるを得ない可能性がゼロではないことです。
大きな血管からの出血は、内視鏡で見ながらやっていては遅れてしまいます。それでどうしても胸を開ける必要があります。
幸い、当病院での今までの経験ではそのような症例はありませんでしたが、今後起こらないとは限りません。これは胸腺と大きな静脈をつなぐ血管が、脂肪に埋もれていて見えにくいためちぎれてしまう、などの特殊な状況下で起こります。
この手術の開発者の城戸先生は、(主におとなの患者さん)100人にこの手術をして、初期の4人ほどに胸を開けることになったそうです。

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